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途中からアイゼンをきしませながら伏拝岳を目指す |
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あまり風に叩かれた様子も無いきれいな斜面 |
2年ぶりに履いたアイゼンをきしませながら快適に上って行くと、外輪山の入り口の伏拝岳直下に到着する。ここで初めてザックを下ろし北面の鳥越川方面を覗き込むと、眼下には息を呑むような見事な光景が広がる。眩く広大なカール状の谷が何処までも続き、日本海を全て覆い尽くした雄大な雲海へと続いている。暖冬の今年の正月とはいえ、そこは春スキーでは決して見せない荘厳で美しい別世界だった。
しかしながら正月と言うのに風も殆ど弱まり、青空には優しい太陽が輝く姿など鳥海山では想像した事も無く、何か拍子抜けしたと言うのが当てはまっている。少し気温も上がってきてのんびりムードとなり、缶ビールがあれば一本空けてこのまま昼寝でもしたくなる雰囲気だ。遥か下の滝ノ小屋方面を見下ろすと、同じ小屋泊りだった4人のテレマーカーが河原宿を目指し、我々の辿ったコースを上がって来るのが見えた。
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飯豊、朝日、吾妻方面まで見通しが効く |
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外輪山から千蛇谷方面を見下ろす |
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外輪山を経て七高山を目指す |
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七高山直下の最後の登り |
外輪山から七高山までは多少のアップダウンが有るが、幸い風も強くないのでそのままスキーを担いで歩き出す。所どころ吹き溜まった雪では膝下位のラッセルだが、左側は鋭く切れ落ちた千蛇谷カール、右には昨年4月に滑った本白沢方面がうかがえる。その無垢の白い広大な大斜面は何処までも続き、スキーヤーにとっては美しいビックスケールのパウダーコースに見える。雰囲気的には南蔵王のコガ沢斜面を初めて見た時と似ているが、そのスケールはこれを遥かに上回る素晴らしい光景だった。
出発してから5時間後の11:00に後続が七高山に到着し、例のハイオク梅酒を取り出して正月のお神酒を上げる。白い大きなドームの新山は目の前だが、今回は山頂をパスして早速滑降の準備に取り掛かる。(後で考えれば新山の山頂を踏んでおけば良かったと後悔している。)後から上がって来たテレマーカーの4人は、外輪山直下の斜面から既に下降した後だった。
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東面のビア沢・本白沢方面のパウダー大斜面 |
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七高山からスタート |
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伏拝岳直下の斜面を下る |
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テクニカル&パワフルのテレマーカー千田さん |
七高山からはシールをつけたままでスタートし、外輪山の多少のアップダウンを繰り返して下りて行く。暖冬の為かうるさいシュカブラもあまり見られずに、上ノ台コース、鶴間池コースなどの東斜面をゆっくり鑑賞し、なごりを惜しみながら元来た湯ノ台コースへと急ぐ。伏拝岳の直下でシールを外すと、後は滝小屋を目指して連続した斜面を滑り込んで行く。トップはパワフルでしかもテクニカルなテレマーカーの千田さん。低重心で実に安定したスタイルは良く板も走り、多少のシュカブラなど物ともせず飛ばして行く。ベストショットを捉えようとデジカメを構えるが、とてもスピードに追いついて行けずにどうも決まらない。
一方年季ばかりではなく熟練した腕前の木村さんは、やはり低い姿勢からリズミカルなショートターンを刻んで後を追う。斜面は多少ブッシュの先端が出ている程度で、殆どは新雪が吹き溜まって締まり加減のパウダースキーをが満喫できる。外輪山直下のルンゼどうしに下降して行くが、途中のシュカブラを嫌って右に逃げ、後は河原宿を目指してルンゼ状の斜面をまっしぐらに飛ばして行く。やはり、この様なフラットな大斜面では豪快なロングターンが良く似合う。
河原宿から見上げる鳥海山南面はどっしりとして威厳が有り、山全体がスキー場という様な環境のこの山は、スキーヤー・ボーダーにとって聖地と言っても言い過ぎではない。木村さんが口癖のように言いう「鳥海山は宝の山」とは決して嘘ではない。
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春には想像できないパウダー斜面 |
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パウダーを蹴散らし下りて行く |
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雲海を目掛けて滑り込む木村さん |
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河原宿上部のパウダー斜面 |
河原宿から下は滝ノ小屋までカール状のパウダー斜面となっており、これまたスキーヤーの為にある様な素晴らしいコースだ。ロングターンでどんどん加速して行くと、小屋まではあっという間の瞬間だった。小屋に着いてみると一人のスキーヤーが今から上部を目指して上がって行くのが見えた。小屋に入ろうとした時突然2階の窓から声をかけられ、「今夜は泊まって行け。酒はある。」とのお話。昨日の大盛り上がりで調子に乗って酒を飲み干し、ガス欠も重なって今日下山予定だった我々には天国からのお誘いだった。
途中で見かけたテレマーカーは知人の西川山岳会のYさんで、Gさんと行動を供にして滝ノ小屋入った模様。馬力のあるY氏はあっという間に外輪山直下に到達し、一気に飛ばして小屋まで戻ってきた。それでも物足りない様で、もう既に酒の入り始めた千田さんと一緒になり、裏のカール状斜面を再び上がって行った。我々2人は遠慮なく酒・肴を頂きながらこの方の話を伺ったところ、この20年間毎年滝ノ小屋で正月を過ごしておられるGさんで、地元の山屋さんには広く知られた有名人の様だった。なんらお返しするものが無く恐縮しっぱなしだったが、酒は無類の強さで、私などは宴たけなわの最中に沈殿してしまった。唯一最後までお付き合いした千田さんは、後になってどの位酒が入ったのか記憶に無い様子だった。なお、この話の中で興味深かったのは、30年以上前の2月の厳冬期、酒田のパーティーが4日間で上ノ台コースを完登していたと言う事実だった。
1月2日
流石に朝食はスロースタートだったが何時の間にか焼酎が出回り、朝から第2弾の宴会模様となってしまう。運転手の千田さんには申し訳ないが、せっかくの機会なので我々もそれに素直に従うまでだった。外に出てみると風も弱まり、なんと昨日の様に青空に鳥海山の山頂が覗いている。全員でようやく荷物を整理して宮様コースを下り始めたのは11:30AMで、鬱陶しい薮がらみの尾根コースを難儀しながら降りて行く。
新雪荘前の荒木端で1本を入れ、後はすっかりトレースの残っている車道を滑り、のんびり流してゆくと大台野に到着した。しかしこのGさん、大台野で出会った盛岡の知人のパーティーに誘われ、再び山雪荘に上がって行ったのには恐れ入った。
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河原宿から滝ノ小屋へ下降する |
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午後になって再び山頂が姿を現す |